約四百年にわたって干菓子を専門に手掛ける菓子司

亀屋伊織 天明八年(1788年)に起きた「天明の大火」元治元年(1864年)に禁門の変の兵火によって起きた「鉄砲焼け」などの大火災で、京の市街地は幾度か甚大な被害を受けている。そのため、約四百年の歴史をもつ亀屋伊織ではあるが、古い記録は火災の際に消失してしまい、創業年ははっきりとわからないという。しかし、「伊織」の名は、徳川三代将軍家光に「木の葉」という名の菓子を献上した折、御所百官名のひとつを賜ったものと伝えられている。
 創業以来、情趣あふれる干菓子を専門に商ってきた同店では、今も、伝来の技術を継承した十七代目の主人が、一人で菓子をつくり続けている。必然的に、茶会などで使われる菓子の受注で手一杯となり、予約なしで店を訪れても買い求めることはできない。
 老舗の菓子司らしく、菓子は総桐の「菓子だんす」に収納されている。一月には、紅白の有平糖を結んだ「千代結び」、五月には淡い紫色も美しい「かきつばた」、十一月には押し物の栗や松かさ、洲浜のモミジやイチョウ、有平糖のキノコのほか七種類の干菓子を寄せ集めた「吹き寄せ」などが引き出しに収められる。どの菓子も、シンプルな意匠でありながら季節感にあふれ、京菓子の美意識が見事に表現されているといえるだろう。

茶会の一期一会を鮮やかに演出する干菓子をつくる

当店では約四百年の間、干菓子だけをつくってまいりました。干菓子は、茶の湯において、濃い茶のあとに出される薄茶に供される菓子です。そのため、薄茶に合うよう分量を少なくして、軽やかに仕上げるのが肝要といえます。「お茶がある」という言葉がありますが、茶の湯では、あくまでお茶が主役。干菓子は、茶の湯の雰囲気に自然に溶け込む色や形でなければならないのです。
 干菓子には、木型に材料を押し込んでつくる押し物や、豆の粉と砂糖を練った洲浜、砂糖密を煮詰めた有平糖、煎餅などいくつかの種類があります。中でも有平糖は、彩りの美しさや細工の自由度の高さといった面で優れていますが、出来栄えが天候に左右されやすく、ほんの少し具合が悪いと水気が出てしまうなど、つくるのは非常に難しい菓子です。砂糖蜜をタイミングよく煮詰め、手早く美しい細工を施す等々、有平糖の菓子づくりには、いつも真剣勝負で望んでいます。これからも私どもは茶事においてひときわ精彩を放つ干菓子をつくっていきたいと思います。そして、その時々の季節や趣向によく調和した菓子を提供し、茶会の心得である「一期一会」を、鮮やかに演出できる存在でありたいと願っています。

店舗情報

創業 約四百年前
商号 亀屋伊織
所在地 京都中京区二条通東新町入ル
電話 075-231-6473
定休日 不定休
予約 要予約
亀屋伊織 地図 亀屋伊織 外観

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