茶懐石文化の担い手として歩む
辻留
客席をもたない出張料理専門の店
創業は明治三十五年。「辻留」の名は、初代・辻留次郎から取ったもので、現社長で三代目となる。留次郎は、裏千家の十三世家元である圓能斎宗室から茶懐石について学び、お茶席などに料理人が出向いて懐石料理をつくる、出張専門の料理店というスタイルを確立した。そのため辻留の京都本店では、店自体にお客を迎える場所を設けていない。懐石料理とは、日本古来の一汁三菜という食法に乗っ取った料理で、通常は茶の湯の席で茶をいただく前に出されるものである。懐石という言葉自体は「空腹をおさめるための簡単な食事」という意味を表わしているが、茶道の歴史に育まれた京懐石料理は、芸術の域にまで高められている。四季折々の旬の素材を用い、伝統技法によって調理された料理の数々は、季節感あふれる器に盛り付けられ、究極の料理の美を表現しているといってもよいのではないだろうか。
同店は、昭和初期から裏千家の茶懐石料理を受け持っており、正月の初釜など、さまざまな行事で見事な腕前を披露している。茶席以外では、近年は宝ヶ池プリンスホテルの茶寮にも注文に応じて出張することも多くなったという。また、昭和二十九年には、東京赤坂に支店を出したが、こちらは出張料理とともにお客を迎える座敷をしつらえており、懐石料理の料亭として高い評価を得ている。
旬の素材を生かし、相手を思いやる懐石の心
懐石料理には、「旬のものを使う」「素材の持ち味を生かす」「親切心や心配りをもって調理する」という三つの大原則があります。当店では、私の祖父が裏千家家元から直々に茶懐石の心を伝授されて以来、ひたすら純粋に、これらの原則に基づいた料理づくりに励んでまいりました。
「旬のものを使う」とは、いうまでもなく、それぞれの素材が最も美味しい時に使う、ということです。良い素材を買い求めるのは、料理の基本中の基本であり、要するに料理とは、材料を買いにいくところから始まっているといってもよいでしょう。また、せっかく良い材料を仕入れても、調理するまでに劣化させてしまっては意味がありません。例えばホウレン草は放っておくとすぐに萎れてしまいますが、濡れた布きんに包んで暗所に置いておくことにより、鮮度を保つことができます。「素材の持ち味を生かす」とは、鮮度の良いものだけが持っている素材の甘みを生かすことであり、仕入れた素材を調理するまで良い状態で保存しておくことも、たいへん重要な要素になるのです。
そして、最も大切なのが「親切心や心配りをもって調理する」ことです。例えば、年配のお客様には柔らかめの料理をおつくりする、お酒がお好きなお客様には、お酒をゆっくり飲めるよう料理を出す間隔を長めにとる、という具合に、常に相手を思いやることが懐石の心であるといえます。私どもはこれからも、心のこもった懐石料理をつくり続けていきたいと願っております。
店舗情報
創業 | 明治35年(1902年) |
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商号 | 株式会社辻留 |
所在地 | 京都市東山区三条大橋東入ル |
電話 | 075-771-1718 |
FAX | 075-761-7619 |
定休日 | 不定休 |
予約 | 要予約 |