茶道の心が生きる伝統銘菓をつくり続ける
京華堂利保
一筆の力強い渦模様に込められた茶の心
武者小路千家官休庵の利休堂には、「濤々(とうとう)」と書かれた額がかかっている。濤々とは、大波の音を表す文字で、茶の席で釜の湯が煮えるときの音「松風」を表現した高松藩松平候の揮毫であるという。この文字をそのまま名称に用いた銘菓「濤々」をつくっているのが、明治三十六年(1903)創業の京華堂利保である。
「濤々」を創作したのは同店の2代目当主で、武者小路千家の十三世家元である有隣斎宗匠の助言をもとに完成させたとのこと。「濤々」という名称も、そのとき家元が命名したものである。上下二枚の麩焼き煎餅で、刻んだ大徳寺納豆を練り込んだ餡をはさんでおり、菓子の表には、白い渦巻模様が力強く一筆で描かれている。大徳寺納豆の独特の香味が、上質の餡の風味と見事に融合し、その妙味は他に比べるものがない。
この他、注文に応じてお茶会用の生菓子も、一つひとつ丹精を込めて手づくりしている。
手づくりの良さを真摯に守り続ける
京菓子の良さは、美味しいばかりでなく、季節感を表現したデザインや、はんなりした色合いにあると思います。当店は、昔ながらの良い菓子をつくっていくため、材料を吟味することはもちろん、手づくりの製法にこだわり続けています。「企業的」な観点で考えれば、手づくりを続けるのは困難な面もあるでしょう。しかし、当店の菓子づくりは「家業」として行なっていますので、これからも充分にやっていけると思っています。
私どもがつくっている「濤々」の製法は、二代目が創案した時点ですでに完成されているため、改良すべき点もなく、変える所もありません。以前、近年の甘み離れの傾向を考慮して、甘さを減らしたものを試作したことがありますが、味が落ちてしまいました。やはり、古くから残っているものは、昔のままつくっていこうと考えております。
ただ、他の菓子をつくる際の材料に関しては、時代とともに変化してきた部分もあります。昔からあったものがなくなったり、まったく新しい素材が登場したりしますので、それらをどう使っていくかが大きな課題となっているのは事実でしょう。私の代になって、新作菓子はできておりませんが、いずれは完成させたいと思います。百年後の当主が、「この味は残していきたい」と考えるようにな菓子を創作するのは、並大抵のことではありません。一代で一つ創り出すことができれば、よいのではないでしょうか。
店舗情報
創業 | 明治36年(1903) |
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商号 | 京華堂利保 |
所在地 | 京都市左京区二条通川端東入ル難波町 |
電話 | 075-771-3406 |
FAX | 075-761-8265 |
営業時間 | 午前8時~午後6時 |
定休日 | 日曜日 |