茶店の風情をいまに残す懐石料理
瓢亭
伝説の料理ともいわれる瓢亭玉子と朝がゆ
創業は江戸時代後期の天保八年八月十五日(1837)そう記した看板がいまに残っているからだが、これほどの歴史をもつ老舗の創業年月日がはっきりしているというのも珍しい。ただし、これは料理屋としての創業のことであり、それ以前からもこの地で茶店を営んでいた。ちょうど南禅寺の参道沿いで、さらには東海道の裏街道にもあたり参詣客や旅人たちはここで新しい草履に履き替えて、寺院や洛中に向かったのだろう。 その茶店らしい風情はいまも残っていて、いわゆる高級料亭といった豪勢な玄関は見当たらない。だから、「玄関は?」と戸惑う客がいまだに絶えないという。一瞬の間をおいて仲居さんがすっと現れ、路地伝いに部屋へと案内してくれる。これも瓢亭を訪れた際の一つの儀式といえる。 ここで幕末からすでに名物として知られてきたのが、二つ切りの半熟玉子。幕末や、明治初期の頃なら玉子も珍しかっただろうが、いまだに名物となっているのは、白身だけを固くして黄身はとろりと柔らかく、二つ切りにしても白身に黄身の汚れがまったくついていない。その旨さは「近世の奇製なり」とも言われ、後の内務大臣となった長州の品川弥二郎も、「一子相傳半熟鶏卵」と戯れ書を残している。 もうひとつ、瓢亭名物として欠かせないのが朝がゆだろう。濃いめのだしが効いた吉野葛のあんをかけた白がゆで、グルメ本の多くには必ず紹介されている。祇園で遊んだ旦那衆が朝早くに芸妓連れで訪れて、店のものを起こして朝食を注文する。店では仕方なく、ありあわせのものをみつくろって出した。それが朝がゆの始まりといい、いまも夏季限定の名物として、数多くの人達に愛されている。
持ち続けたい料亭のこだわり
古いものを古いまま残すのは大事なことですが、使い勝手やお客様のことも考えていかなければなりません。当店の建物も、創業以来のものはめだたないように修理を重ねてしのぎ、比較的新しいものは思い切った手を打っていこうと思っています。料理についても、素材は時代に合わせて変えていくこともありますが、だしと塩にはこだわっておりまして、利尻の一等昆布と鰹ではなく鮪のけずり節を、塩は伊豆大島の天然塩を使っています。 同じ食事でも、ご家庭でいただくのと、料亭などでいただくのとでは、おのずから違います。最近ではジ-ンズ姿の若い方もお見えになります、それがいけないとは申しません。ただ、ケとハレの気持ちのけじめがなくなっていくのは寂しいかぎりです。ですから、そういうなかで食文化も含めた、伝統的な生活習慣を大事にしたいと思っています。敷居の高さなどではなく「よそ行き」の気持ちを少し思い出していただければと考えます。そのためにも、私どものような店が果たす役割も大切だろうと感じています。
店舗情報
創業 | 天保八年(1837年)8月15日 |
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商号 | 株式会社瓢亭 |
所在地 | 京都市左京区南禅寺草川町35 |
電話 | 075-771-4116 |
FAX | 075-771-8262 |
営業時間 | 午前11時~午後8時(夏の朝がゆは午前8時~10時) |
定休日 | 第二・第四火曜日 |
予約 | 要予約 |
URL | http://www.hyotei.co.jp |