故郷丹波の風情を表現した銘菓「きぬた」

長久堂  天保二年(1831)、丹波から都に出てきた初代・長兵衛は、室町四条において、「新屋長兵衛」という屋号で京菓子の製造販売を始めた。「新屋」という名称は、新しいことになんでも挑戦する、という初代の意気込みを表していたとのこと。また、初代は子供好きで、飴菓子をかった子供たちにおどりを踊って見せ、たいそう喜ばれていたという。
 嘉永六年(1853)のこと、初代が丹波に帰郷した折りに、織り上げた絹をやわらげて艶を出すために打つ砧の音に感じ入り、銘菓「きぬた」を考案した。反物を象ったデザインで、芯の部分に羊羹を用い、白い絹に見立てた求肥を巻き、和三盆をまぶしてある。明治に入り、きぬたはパリ万国博覧会に出展されて賞を受けた。そして今日まで、きぬたは名実ともに京を代表する銘菓として、愛され続けてきたのである。
 能面を模した干菓子の「花面」も、同店の銘菓として名高い。口に入れるのがためらわれるほど繊細な細工が施され、柔らかな表情が見る者の心をほっとさせてくれる逸品である。五種類の面が詰め合わせており、各面毎に玉茶、芳豆、炒麦などの素材が使用され、バラエティあふれる味わいとなっている。屋号を「長久堂」に改称したのは、明治二十二年、二代目・長助とその妻・久の名を取ってつけられたとのことである。

京都を訪れる方々の期待に応えることが大切

私どもは、「きぬた」をはじめとして、古くからある菓子を何種類もつくり続けていますが、単に昔の味を維持しようとするのではなく、絶えず味に磨きをかけていかなければならないと考えています。伝統を守るためには、逆に、前向きに攻める気持ちを持つことも大切だと考えているからです。長く支持されてきた菓子でも、「これで本当に正しいのか」と常に見直すことによって、最高の美味しさが保たれるのではないでしょうか。
 また、当店では、随時新作菓子の開発にも取り組んでおります。伝統菓子の製法を守るのも大切ですが、新作の開発能力を磨くことによって、常日頃から技術の向上に努めることも、とても重要だと考えています。
 さて、私どもが製造・販売している菓子類は、主に地元の京都の方々がご進物などにお買い求めくださるケ-スが多いといえます。ところが、共同ビルを建てるために、四条河原町の店を平成九年から同十年にかけて閉店したところ、京都を訪れるたびにお立寄りくださっていた地方のお客様から、何度も問い合わせのお電話をいただきました。このとき初めて、当店にも地方のファンの方が、思いの外たくさんおられることがわかりました。これからも、地元のお客様や京都を訪れる方々のご期待を裏切らないよう、日々前向きに努力しなければならないと、気持ちを新たにした出来事でありました。

店舗情報

創業 天保二年(1831年)
商号 株会社長久堂
所在地 京都北区上賀茂畔勝町97-3
電話 075-712-4405
FAX 075-712-3585
営業時間 午前10時~午後7時
定休日 火曜日
長久堂 地図 長久堂 外観

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